家探しは『Baldur's Gate』。スペックと直感の戦い
日本の「密度」とアメリカの「広さ」
日本に帰国してはや半年、日本の生活にはすっかり適応しました。 ご飯は美味しいし、コンビニは便利だし、電車は時間通りに来る。文化的なリハビリは完了です。むしろ、アメリカに行く前にはありがたみを感じなかった日本の文化や自然を存分に楽しんでいます。
しかし、ふとした瞬間にアメリカの「無駄なほどの広さ」が恋しくなります。 あの広大な空と、無意味に広い道路。それに慣れきった身体には、日本の住宅事情はあまりに密度が高く、少し息苦しく感じることがあります。
というわけで、日本の利便性は確保しつつ、あの「抜け感」を取り戻す場所を探す旅に出ることにしました。 今回のパッチノートは、そんな私の家探しの記録です。
変数の爆発:家づくりは「バルダーズ・ゲート」だ
いざ家を買おうと思い立って気づいたのですが、これ、無理ゲーじゃないですか?
単に「住む場所」を決めるだけではありません。 土地の資産価値、ハザードマップ、建売か注文か中古リノベか、工法は木造か鉄骨か、断熱等級に耐震等級……。
考慮すべきパラメータが多すぎます。 まるで前回紹介した RPG『Baldur’s Gate 3』のようです。種族、クラス、能力値、パーティ構成、攻略順序、戦闘方法もろもろを無限に組み合わせるアレです。しかもゲームと違ってセーブポイントはありません。攻略サイトに「正解」も載っていません。せいぜい見つかるのは結局、私の価値観が正解、みたいな一般論です。結論まで読んだ時間を返してくれ。
何はともあれ、まずは「UA値とは?」「C値とは?」という基礎ルールの学習から始めなければならず、リサーチだけで私の脳内パンク寸前でした。
こう言う時に何をするのか。考える軸を絞るのです。次元削減です。どうやって?そりゃ、妻との対話と、感覚頼りです。この段階までに消費した大量の情報をもとに、私達の要望にマッチしていそうなのは企画住宅かな、となりました。
土地選びの多変量解析
絶望していても家は建たないので、まずは土地選びから。 無数の変数の中で、私が特に重みを置いたのが以下の3つです。
- コスパ
- 都心&西日本へのアクセス
- 開放感と自然
この条件でフィルタリングをかけた結果、「中央線」vs「湘南新宿ライン」の頂上決戦となりました。
まずは神奈川県の大船・逗子エリア。 海も近くて自然は最高です。しかし、実際に現地調査をしてみると道が狭く、坂が多い。そして何より「都会感」が薄い。余談ですが、逗子の探索中にたまたま「披露山庭園住宅」と言う高級住宅街を目にしました。調べてみると、一番狭い区画でも 150 坪、窓からは富士山の絶景、平均の一般人は立ち入りもできなく、専用警備員がいるというエリアです。日本にもこんな場所があるんですね、びっくりしました。自販機の水が 1,000 円でも驚かないくらい別世界でした。
次に浦和エリア。 街は綺麗で教育環境も良さそうですが、特に感動する点がなかったことに加え、地価も可愛くなかったです。また、山や海へのアクセスが悪く、天然な自然豊かさと言う観点ではいまいちでした。
そして辿り着いたのが、立川です。 駅前は百貨店やレストランが立ち並ぶ都会ですが、少し離れると元米軍基地の影響か、道路が広く区画整理がされています。昭和記念公園という巨大な庭があり、多摩川も近く、山へのアクセスも良い。
「あ、ここはちょっとアメリカっぽいかも。」
都心へのアクセスは湘南新宿ラインに劣りますが、その他の条件が高い次元で合致した瞬間でした。ここに置くことに決めました。
ハウスメーカー戦略:情報の「沼」を泳ぐ
土地が決まれば次は上物(建物)です。ここでもまた情報の沼が待っていました。
ホームページを見ても、良いことしか書いてありません。 坪単価、工法、断熱性能(UA値)、気密性能(C値)……。 エンジニアの性(さが)として、情緒よりも「数値」に走りがちになります。 悲しいことに、エンジニアという生き物は『情緒』というフワッとしたパラメータよりも、『C値 0.5』というパキッとした数字に、抗えない引力を感じてしまうのです。 YouTuberの「まかろにお」氏の動画をむさぼり見ながら、私のマインドセットは完全に 「家は性能こそが正義」 に寄っていきました。
無限に悩んでいても仕方ないので、自分なりの指針を作りました。
- 建物 < 土地:建物は減価償却するが、土地は資産として残る。
- 断熱気密重視の木造:夏冬にも心の準備なしでトイレに行くために。日本の気候にはこれが最適解(と信じ込む)。
- 信頼性:無名な工務店で博打は打たず、施工品質が担保された大手〜中堅へ。
これらの指針を元に、性能特化しつつもデザイン(情緒)も捨てない、バランスの取れた5〜6社に絞り込み、いざ展示場へ突撃です。
実機検証:ロジックと直感の対立
実際に展示場に行ってみると、Web上のスペック表だけでは分からないことが見えてきます。
ミサワホームや三井ホーム、アキュラホームは、非常に好印象でした。 ミサワホームの「蔵」という収納の工夫や、特許に裏打ちされた細部のデザイン。三井ホームの圧倒的なデザイン力(残念ながら私達の希望では規格住宅は無理だったので断念)。アキュラホームのバランス感覚。 これらは「性能」と「住む楽しさ」が共存しており、私の直感センサーもポジティブな反応を示しました。
一番の誤算は、事前のスペック比較(ロジック)では本命だった、一条工務店でした。
「家は性能」というキャッチコピーの通り、数値上のスペックは最強です。 他のメーカーさんでも、性能では一条さんに敵わない、と言われるメーカーもあったほどです。 しかし、意気揚々とモデルルームに入った私を待っていたのは、少し噛み合わない会話でした。
私「全館空調で温度管理をしたいんですが」
営業さん「床暖房と床冷房で十分です。全館空調は不要です。」
私「でも、細かい温度調整とかできるんですか?」
営業さん「人がなぜ寒いと感じるかご存知です?人間の体感温度というのは湿度が重要でして…… これは体験していただかないと分かりませんが……」
まるで、ログ出力から原因探しをしているような、なんか関連はありそうなんだけど、核心の情報が得られない、みたいな。
こんなやりとりが何度かあり、妻も数字ベースの営業に退屈している様子。 デザイン面でも「外壁のタイルは2種類、数色から選べます」といった感じで、カスタマイズの余地が極端に少ない。 一番の「Bad Signal」は、モデルルームに入ってから、カッコ良い!と思える点がなかったこと。
ふと思いました。「ああ、これは完全栄養食なんだ」、と。
栄養価(断熱・気密・耐震)は満点です。これを摂取していれば、絶対に風邪も引かないし、健康でいられるでしょう。 しかし私たちは、時には健康を犠牲にしてでも、「ハンバーガーや BBQ のような心踊る料理」 が食べたいんです。
データ上最強なんだけど Go と言えない、と言う結果になってしまいました。
結論:直感を信じろ
ゲームなら「失敗したからロードしてやり直し」ができますが、人生は一発勝負です。 完璧な正解を探して迷っている間にも、年を取り、良い土地は売れ、物価は上がり、機会損失は増えるばかりです。
だからこそ、ある程度期間を決めて(ここ重要)調査をした後は、最後は不安を飲み込んで 「えいや!」と腹をくくって直感で選ぶ しかないんです!!!…と自分に言い聞かせて精神の安定を図る毎日です。
なにはともあれ、「正しい」だけでなく「カッコいい」も捨てきれない。そう感じた週末でした。
というわけで、私の家探しの旅はまだ続きます。 次回は、性能怪獣「ヤマト住建」と、木造の王「住友林業」へ挑みます。
果たして私は、スペックと直感の狭間で最適解を見つけられるのか?
乞うご期待。
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